2025.06.23
GitHub Copilot Agent × Github MCPが変える コードレビュー
こんにちは、次世代システム研究室のT.D.Qです。
大型ウェブアプリケーション開発において、コードレビューは品質保証とチーム間の知識共有に不可欠なプロセスです。しかし、手動でのコードレビューは時間と労力がかかり、開発サイクルのボトルネックとなることも少なくありません。近年、AIの進化により、この課題を解決するための強力なツールが登場しています。本記事では、GitHub Copilot Agent ModeとModel Context Protocol (MCP) を組み合わせることで、VS Code上でのPull Request包括レビューを劇的に効率化する方法を詳細に解説します。これらのツールを最大限に活用し、より質の高いコードを、より迅速に提供するための実践的なアプローチをご紹介します。
1. はじめに
従来のコードレビューは、ファイル単位での個別分析に留まることが多く、Pull Request全体の包括的な理解が困難でした。GitHub Copilot Agent Mode は、この課題を根本的に解決する革新的なアプローチを提供します。

図1: GitHub Copilot Agent Mode
2. GitHub Copilot Agent Mode の革新性
GitHub Copilotは、開発者のコーディング作業を支援するAIペアプログラマーとして広く知られています。その中でも「Agent Mode」的な機能は、従来のCopilot Chatとは一線を画す革新的な能力を提供します。Agent Modeの最大の特徴は、複数のファイルを横断的に分析し、Pull Request全体を包括的にレビューできることです。単一ファイルの個別分析ではなく、プロジェクト全体のコンテキストを理解した上で、変更点の影響範囲や関連性を体系的に評価します。
2.1 Agent Modeの概要と機能
Agent Modeは、ユーザーが自然言語で指示を与えることで、Copilotがその意図を理解し、適切なアクションを実行する仕組みです。特にPull Requestのレビューにおいては、Agent Modeは複数ファイルの変更を一つの統合されたコンテキストとして捉え、以下のような高度な分析を実行します:
- 横断的影響分析: あるファイルの変更が他のファイルに与える影響を自動的に検出
- アーキテクチャ整合性チェック: プロジェクト全体の設計原則との一貫性を評価
- 依存関係の追跡: 変更されたコンポーネント間の依存関係を分析
- 統合的品質評価: 個別ファイルではなく、機能単位での品質を総合的に判断
これにより、開発者は煩雑な作業から解放され、より本質的な問題解決に集中できるようになります。
2.2 Pull Request包括レビューの革新性
VS CodeでAgent Mode機能を利用するには、GitHub Copilot Chat拡張機能をインストールし、チャットビューを開きます。Agent Modeの真価は、AIエージェントと組み合わせて使用する際に発揮されます。
Pull Request全体レビューの実行例
https://github.com/{repository}/pull/{pull request ID} このPull Requestの全ての変更ファイルを包括的にレビューしてください。 以下の観点で体系的に分析してください: 1. ファイル間の整合性と依存関係 2. アーキテクチャ設計原則への準拠 3. 変更の影響範囲とリスク評価 4. テスト戦略の妥当性
Agent Modeは、指定されたPull Request内の全ファイルを同時に分析し、それぞれの変更がプロジェクト全体に与える影響を評価します。これは従来の「ファイル個別レビュー」では不可能だった、「システム全体の観点からの包括的レビュー」を実現します。
2.3 従来手法との比較
従来のコードレビューとAgent Modeの大きな違いは、「点」ではなく「面」でのレビューが可能な点です。
従来のレビュー手法の限界
- ファイル単位での個別分析に留まる
- 変更の全体像を把握するために複数ファイルを手動で行き来する必要
- 影響範囲の分析が不完全になりがち
- レビュアーの経験に依存した主観的評価
Agent Modeの革新的アプローチ
- システム全体の理解: Pull Request内の全変更を統合的に分析
- 自動的な影響分析: ファイル間の依存関係を自動検出し、変更の波及効果を予測
- コンテキスト保持: 複数ファイルの変更内容を同時に記憶し、関連性を評価
- 一貫性チェック: プロジェクト全体のコーディング規約や設計パターンとの整合性を自動確認
Agent Modeの実際の効果
大規模なPull Requestにおいて、Agent Modeは以下のような具体的な価値を提供します:
- 見落とし防止: ファイル間の関連性を見逃すリスクを大幅に削減
- レビュー時間短縮: 手動でのファイル間移動や関連性確認作業が不要
- 品質向上: システム全体の観点からの一貫した品質評価
- 学習効果: 複雑な変更パターンについてAIからの包括的フィードバック
特に、マイクロサービスアーキテクチャやモジュラー設計のプロジェクトにおいて、Agent Modeは複数コンポーネント間の相互作用を理解し、変更がシステム全体に与える影響を正確に評価することができます。
3. レビュー準備:MCP連携とプロンプト設定
重要な注釈: 本記事で言及している GitHub との連携は、Claude の Model Context Protocol (MCP) と GitHub API を組み合わせた統合手法を指します。これは GitHub 公式の機能ではなく、サードパーティのツールチェーンを活用したアプローチです。
Model Context Protocol (MCP) は、AIエージェントが外部システムと安全に連携するためのプロトコルです。GitHubとの連携においては、MCPを通じてプルリクエストの情報取得や、レビューコメントの投稿などが可能になります。
主な利点は以下の通りです。
- AIとGitHubワークフローの統合: AIがGitHubのデータにアクセスし、より文脈に沿った分析を実行
- レビュープロセスの効率化: PR の変更内容、履歴、関連Issue を総合的に分析
- 開発者の負担軽減: 手動でのデータ収集や分析作業の自動化
3-1. MCP連携の設定
注意事項
以下の設定例は概念実証レベルの実装例です。実際の実装では:
- 組織のセキュリティポリシーに従った検証が必要
- 使用するツールやライブラリの最新ドキュメントを参照
- 本番環境での使用前に十分なテストを実施
基本的な設定手順(例)
- Githubのアクセストークンを発行
- GitHub Personal Access Token の設定(最小権限での運用)。
Github のトークン取得に関してはこちらをご確認ください。
公式を確認してもわからない場合は、ググるとたくさん取得方法が出てきますので、そちらをご確認していただければです。
- GitHub Personal Access Token の設定(最小権限での運用)。
- VS Code での連携設定
- VSCodeにMCP Serverの拡張機能のインストール。
今回は最近リリースされた VSCode v1.99 を用いて MCP サーバを構築していきます。 - MCP Serverの拡張機能の設定場所である「.vscode/settings.json」ファイルにGithub MCPの設定
- VSCodeにMCP Serverの拡張機能のインストール。
{ "mcp": { "servers": { "github": { "command": "docker", "args": [ "run", "-i", "--rm", "-e", "GITHUB_PERSONAL_ACCESS_TOKEN", "ghcr.io/github/github-mcp-server" ], "env": { "GITHUB_PERSONAL_ACCESS_TOKEN": "" } } } } }
正常に設定完了した場合は、VS Code で以下のようにGitHub MCPを確認できます。

図2: VS Code に表示されるGitHub MCP拡張機能
また、GitHub MCPのツール一覧も確認可能になります。

図3: GitHub MCPで利用可能なツール一覧
3-2. プロンプトファイルの準備
Agent Mode機能のレビュー精度を最大化するにはプロンプトファイルの工夫が有効です。
プロンプトファイルは Copilot Chat の動作をカスタマイズするための仕組みです。 VSCode のコマンドパレットから「新しいプロンプトファイル」を選択することで作成できます。
--- mode: "agent" --- description: "Pull Request包括レビュー支援プロンプト" --- シニアソフトウェアアーキテクトとして、Pull Request全体を包括的にレビューしてください。 ## レビュー観点 - バックエンド: ドメイン駆動設計(DDD)の原則とベストプラクティス - フロントエンド: Feature Sliced Design(FSD)原則とベストプラクティス - 横断的関心事: セキュリティ、パフォーマンス、保守性 ## 分析手法 1. Pull Request全体の変更ファイルを同時に解析 2. ファイル間の依存関係と影響範囲を評価 3. アーキテクチャ設計原則との整合性をチェック 4. 統合的な品質評価を実施 ## 出力形式 各指摘には以下のメタ情報を付与してください:
メタ情報 | 期待する対応 | 説明 |
---|---|---|
[critical] | 修正必須 | セキュリティやバグリスク |
[important] | 修正推奨 | 品質やパフォーマンス改善 |
[suggestion] | 修正任意 | コードスタイルや最適化提案 |
[question] | 確認要請 | 意図や要件の確認 |
[praise] | - | 良い実装の評価 |
4. Agent ModeとMCPを組み合わせたPR包括レビュー
GitHub Copilot Agent ModeとMCPを組み合わせることで、Pull Request全体を包括的かつ体系的にレビューする革新的なワークフローが実現できます。
Agent Mode主導の包括的レビューフロー
Agent ModeとMCPを組み合わせたPull Requestレビューは、従来のファイル個別レビューとは根本的に異なるアプローチを採用します。
-
Pull Request全体の情報収集
MCPがGitHubからPRの全ファイル変更、関連Issue、コミット履歴を取得し、Agent Modeに包括的なコンテキストを提供 -
システム全体の影響分析
Agent Modeが全変更ファイルを同時に解析し、ファイル間の依存関係、アーキテクチャへの影響、潜在的なリスクを体系的に評価 -
優先度付きレビューコメント生成
システム全体の観点から重要度を判定し、[critical]、[important]、[suggestion]等のメタ情報付きで構造化されたレビューを生成 -
統合的品質評価レポート
個別ファイルの問題点だけでなく、Pull Request全体としての品質評価とリスク評価を提供
実際のAgent Modeレビューコマンド例
https://github.com/{repository}/pull/{pull request ID} このPull Requestの全変更ファイルを包括的にレビューしてください。 ## 分析観点 1. **アーキテクチャ整合性**: DDD/FSD原則への準拠状況 2. **横断的影響**: ファイル間依存関係と変更の波及効果 3. **品質指標**: テストカバレッジ、セキュリティ、パフォーマンス 4. **統合リスク**: デプロイ時のリスク要因 ## 出力形式 - システム全体への影響評価 - ファイル間の関連性分析 - 優先度付きアクションアイテム - 統合テスト推奨項目
下記のプロンプトでレビュー依頼すると、以下のような形でAgent Modeが動作します。

図4: Agent Mode でのPull Requestレビュー依頼画面
実行結果として、以下のような包括的なレビューが表示されます。

図5: Agent Mode による包括的レビュー結果
特に注目すべきは、ファイル間の依存関係分析も含めた総合的なレビューが提供される点です。

図6: ファイル間依存関係の詳細分析結果
5. 実装事例:PRレビューの流れ
レビュープロンプト例1:セキュリティ観点での包括レビュー
https://github.com/{repository}/pull/{pull request ID} このPull Requestの全変更について、セキュリティ観点から包括的にレビューしてください。 特に以下の点を重点的にチェック: - 入力値検証の妥当性(ファイル間での一貫性含む) - 認証・認可の実装(変更による影響範囲) - 機密情報の取り扱い(データフロー全体) - SQLインジェクション等の脆弱性(依存関係も含む)
レビュープロンプト例2:パフォーマンス最適化の包括レビュー
https://github.com/{repository}/pull/{pull request ID} このPull Requestについて、システム全体のパフォーマンス観点からレビューしてください: - データベースクエリの効率性(関連するファイル間での最適化) - メモリ使用量への影響(コンポーネント間での影響) - 不要な処理や重複コードの有無(プロジェクト全体での検出) - キャッシュ戦略の適切性(システム全体での一貫性)
レビュープロンプト例3:アーキテクチャ整合性チェック
https://github.com/{repository}/pull/{pull request ID} このPull Requestの変更が、プロジェクトのアーキテクチャ原則に適合しているかレビューしてください: - DDD原則への準拠(ドメインモデルの整合性) - FSD原則への準拠(フィーチャー分割の適切性) - 依存関係の方向性(レイヤー間の適切な関係) - 責務の分離(単一責任原則の遵守)
6. 応用テクニック・Tips
- 段階的レビュー:大規模なPRは機能やレイヤー単位で順次レビューし、認知負荷を軽減
- コンテキスト重視:変更の背景や目的を理解した上でシステム全体への影響を評価
- プロンプトの具体化:「セキュリティ重点」「パフォーマンス重点」など明確な指示でレビュー観点を絞る
- 結果の検証:AIの指摘内容を必ず人間が最終確認、特にビジネスロジック部分
- 継続的改善:レビュー結果をフィードバックして、プロンプトを継続的に改善
- メタ情報の統一:チーム全体で[critical]、[important]等の基準を統一
- 影響範囲の可視化:ファイル間の依存関係を図式化してチームで共有
7. セキュリティ考慮事項
サードパーティのMCP Serverやプライベートアクセストークンを使用する際は、以下のセキュリティリスクに注意が必要です:
- アクセストークンの漏洩リスク: PATの管理には細心の注意を払う
- データの機密性: プライベートリポジトリの情報が適切に保護されているか確認
- 権限の最小化: 必要最小限の権限のみを付与
安全運用のためのベストプラクティス
- 定期的なトークンのローテーション
- アクセスログの監視
- 組織のセキュリティポリシーへの準拠
- 使用後のトークン無効化
- ローカル環境での実行を推奨(外部サーバーへの公開は避ける)
- 定期的なセキュリティ監査の実施
8. まとめ
本記事では、GitHub Copilot Agent Mode と Model Context Protocol を組み合わせたPull Request包括レビューの手法について詳しく解説しました。この革新的なアプローチにより、従来のファイル個別レビューの限界を克服し、システム全体の観点からの品質評価が可能になります。
主要な価値提案
- 包括的分析: Pull Request全体を統合的に理解し、ファイル間の関連性を自動検出
- 効率性向上: 手動での影響範囲分析が不要になり、レビュー時間を大幅に短縮
- 品質向上: システム全体の一貫性と整合性を確保した高品質なレビュー
- 学習効果: AIからの包括的フィードバックによる開発者のスキル向上
現実的な導入アプローチ
- 段階的な導入: まずは小規模なプロジェクトで実験的に使用
- チーム内での合意形成: AIツールの活用方針について事前に議論
- 継続的な改善: 使用状況をモニタリングしながら手法を改善
- セキュリティの確保: 組織のポリシーに沿った安全な運用
今後の展望
AI技術の進歩により、コードレビューのプロセスは今後も大きく変化することが予想されます。重要なのは、技術の進歩に適応しながら、AIと人間がそれぞれの強みを活かす「ハイブリッドレビュー」の仕組みを構築することです。
Agent Modeによる包括的レビューは、大規模なシステム開発において特に威力を発揮します。ただし、AIの提案を盲目的に受け入れるのではなく、ビジネスロジックや設計思想については人間による最終判断が不可欠です。
今回紹介した手法は、現時点での技術水準に基づいた実践的なアプローチです。実際の導入においては、プロジェクトの特性や組織の方針に合わせて適切にカスタマイズし、継続的に改善していくことが成功の鍵となります。
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